日銀の利上げと金利のある世界
利上げが国債・企業・家計・学生のバランスシートにどう作用するかを整理する
TL;DR
経済ニュースで「インフレ率2.8%」とか「物価上昇率が日銀目標の2%を上回る状態が続いている」といった表現を見ますよね。ほとんどの場合、これは消費者物価指数(CPI)の前年同月比を指しています。
CPIは、総務省統計局が毎月作成・公表している物価指数で、日銀の金融政策や賃金・年金・公共料金の改定など、色々な場面で基準として使われているんです。
ここから先は、CPIとは何を測る指標なのか、どのような手順で作られているのか、そして日本でよく使われるCPIのバリエーションを順番に見ていきましょう。
消費者物価指数(CPI)は、「日常生活で家計が購入する財およびサービスの価格の動きを、総合的に捉えた指数」という位置づけです。
対象になるのは、こんなもの:
つまり「企業間の取引価格」ではなく、「消費者が小売段階で支払う価格」に焦点を当てた指数なんですね。
CPIは、ある基準の年の物価水準を「100」とおいて、その後の物価水準が「100からどれだけ離れたか」を指数で表現する仕組みになっています。
日本では現在、「2020年=100」を基準とする2020年基準CPIが使われており、総務省はおおむね5年ごとに基準年を見直しています。
CPIはざっくりと次の3ステップで作られています。
まず、「家計がよく購入する財・サービスは何か」をもとに、指数に含める品目(指数品目)を決めます。
総務省は、家計調査などを使いながら、支出額の大きさや購買頻度を基準に、代表的な品目を選んでいます。
たとえば、2020年基準では「食パン」「牛乳」「電気代」「携帯電話の通信料」「宿泊料」などについて、それぞれ個別の指数が作成されています。
次に、各品目が家計全体の消費支出のうちどれくらいの割合を占めるかを計算し、その比率をウエイトとして用います。
例を挙げると:
(※家計全体の消費支出を10,000としたときの相対的な重み)
ウエイトは、基準年の家計支出構造(2020年)をもとに設定されており、「平均的な家計がどの項目にどれくらいお金を使っているか」を反映しています。
実際の価格は、全国の小売店やサービス提供事業者を対象に、毎月の「小売物価統計調査」などで収集されます。
指数の計算には、基準年のウエイトを固定して使うラスパイレス型の基準時加重相対法が採用されています。
イメージとしては、基準年の「代表的なカゴ」を固定したまま、各品目の価格が基準年から何%変わったかを計算し、その変化をウエイトで重み付けして合成する、という流れで総合CPIが求められています。
日本のニュースや日銀の資料では、しばしばCPIの「種類」が区別されています。代表的なのは次の3つです。
総合CPIは、すべての対象品目を含めた指数で、「家計の支出全体に対する、物価の平均的な動き」を表す基本形です。
日銀は、長期的な「物価安定の目標」を、総合CPIベースで**2%**と定めています。
コアCPIは、「総合CPIから生鮮食品(主に生鮮野菜・果物など)を除いた指数」です。
生鮮食品は天候要因などで価格の振れが大きいため、短期的な乱高下をならして物価の基調を把握しやすくする目的で利用されています。
日本では、長らく「コアCPI(除く生鮮)」が金融政策上の重要な参考指標として扱われてきた経緯があります。
コアコアCPI(俗称)は、「総合CPIから食料(酒類を除く)とエネルギー関連費(石油製品・電気代・ガス代など)を除いた指数」です。
食料とエネルギーは、国際商品市況や為替レートの変動に大きく左右されるため、内需や賃金など「国内の需給バランス」による物価動向を把握したいときに用いられます。
日銀は、物価の「基調的なインフレ率」を把握するために、コアCPIやコアコアCPIに加え、加重中央値・刈込平均値など複数の指標を総合的にチェックしています。
CPIは、少なくとも次のようなことを把握するのに適しています。
家計全体の平均的な物価上昇率
→ 「インフレ率が年2%程度」などの議論の基礎データになる。
政策判断のための基準
→ 日銀の金融政策(利上げ・利下げ)、政府の年金改定や税・社会保障の制度調整などの前提。
長期的なトレンドの把握
→ デフレ期(CPIマイナス)から、インフレが続く局面への変化など。
多くの国で、中央銀行はCPIベースのインフレ率を「物価安定目標」の基準として採用しています。
一方で、CPIは万能ではなく、少なくとも次のような限界や注意点があります。
1. 個々の生活実感とのズレ
CPIは「平均的な家計」の消費構造を前提にした指数なので、特定の年齢層・地域・ライフスタイルの実感とはズレる可能性があります。
2. 代替行動の完全な反映は難しい
ある品目が値上がりして別の商品に乗り換える(例:牛肉→豚肉)といった行動は、固定バスケット型の指数では十分に反映しきれない場合があります。
3. 品質変化の扱い
スマートフォンや家電のように、価格が同じでも性能が大きく向上している場合、「実質的には値下がり」と考えるかどうかの評価は簡単ではありません。
4. 「中央値」的な指標ではない
CPIはウエイト付きの平均値であり、「典型的な一人の家計」をそのまま表すものではありません。
こうした点から、日銀を含む各国中銀は、CPIだけでなく複数の物価指標を組み合わせて「基調的なインフレ率」を見ようとしているんです。
日本のニュースで出てくる「インフレ率」「物価上昇率」は、ほとんどの場合、総務省が公表する消費者物価指数(CPI)の前年同月比にもとづいている。
CPIは、基準年の支出構造にもとづく「家計の代表的なカゴ」の価格を追いかける指数で、ラスパイレス型の固定バスケット方式で計算されている。
日本では、すべてを含む「総合CPI」、生鮮食品を除いた「コアCPI」、食料・エネルギーを除いた「コアコアCPI」の3つが特によく使われ、日銀はこれらを含む複数の指標を組み合わせて物価動向を分析している。
CPIは、経済全体の物価動向を見るうえでは有効な「共通言語」だけど、個々の生活実感や、特定の世代・地域ごとのインフレ率を完全に表すものではない点には注意が必要。
「インフレ率」という一言の裏には、ここまで見てきたような仕組みと前提があります。その構造を知っておくと、日銀の政策や賃金ニュースを読むときの解像度が一段上がるはずです。
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